前十字靭帯再建術

前十字靭帯再建術について

月刊「整形・災害外科」2014年4月号

特集『膝前十字靭帯損傷治療ー最近のトピックス』に整形外科 大坪英則部長が寄稿しました。

北整災誌の誌上シンポジウム掲載について 2014年3月号

『膝前十字靭帯再建手術に関する北海道の現状と課題』について、整形外科 大坪英則部長と鈴木智之医師がシンポジストとして論述しました。

1.前十字靭帯再建術について

前十字靭帯(ACL)損傷とは?

前十字靭帯は大腿骨と脛骨(膝の関節を構成する2つの骨)に付着し、膝の関節を斜めにまたいでいる靭帯です。前十字靭帯損傷は、この靭帯が損傷した状態です。

前十字靭帯損傷による症状

「膝がグラグラする」「膝が完全に伸びない/曲がらない」等の症状が現れます。 前十字靭帯を損傷した後にスポーツ動作を継続した場合、「膝くずれ(膝がずれ落ち転倒すること)」が出現し、競技継続が難しくなります。

前十字靭帯を損傷する場面

前十字靭帯の損傷場面は非接触型接触型の大きく2つに分類されます。非接触型損傷では、バスケットボール・サッカー等における減速動作やジャンプ着地での受傷が多く、一方、接触型損傷では、ラグビー・アメリカンフットボール等において横からのタックルを受けることで受傷する場面が多いと言われています。

治療の重要性

前十字靭帯損傷は放置するとスポーツ活動に伴う膝くずれを繰り返すことで、2次的な外傷(半月板損傷/軟骨損傷など)が生じる可能性があります。また、日常生活を通じて高い確率で将来的に変形性膝関節症へと進行します。

このように、前十字靭帯損傷は放置することにより大きな悪影響を生じます。そのため、スポーツ活動をする/しないに関わらず、手術により靭帯を再建する(作り直す)ことをお勧めします。また手術の前後では、低下してしまった膝の機能を作り直し、再発しない身体機能を獲得することを目的にリハビリテーションを実施することをお勧めします。

2. 前十字靭帯再建術について

前十字靭帯(ACL)再建術とは?

前十字靭帯再建術とは、膝の機能回復を目的に、断裂した前十字靭帯を自身の腱を用いて再建する手術です。腱を採取する部位により大きく2種類の手術方法(ハムストリングス腱を用いた二重束再建術・長方形骨付き膝蓋腱を用いた再建術)に分けられます。

また、半月板損傷を合併している場合は、半月板縫合術または切除術を行います。

1. ハムストリングス腱を用いた二重束再建術

移植腱としてハムストリングス(太もも裏の筋肉)の腱を用います。本来の前十字靭帯がもつ2本の線維束(前内側線維束と後外側線維束)を移植腱を用いて再建することで、正常な前十字靭帯の機能に近い靭帯を得ることが出来ます。

2. 長方形骨付き膝蓋腱を用いた再建術

移植腱として膝蓋腱中央1/3(膝のお皿の真下にある腱)を骨付きで採取し用います。二重束再建術と同様に正常な前十字靭帯の構造を再現するように靭帯を再建します。

合併症(半月板損傷)に対する治療

半月板の損傷した部位が縫合により治癒する可能性のある場合は半月板縫合術を、治癒が見込まれない場合は半月板切除術を行います。

1. 半月板縫合術

半月板縫合術は半月板の断裂部位を縫合糸により縫い合わせることで断裂部の治癒を期待する手術です。一般的に半月板の辺縁部(外側1/3-2/3)には血流があることから、縫合による治癒が期待されます。一方、半月板の内縁部(内側1/3)は血流がないことから、縫合による治癒は期待出来ないため、半月板切除術を行います。

2. 半月板切除術

半月板切除術は半月板の断裂部を切除する手術です。半月板縫合術による治癒が期待できない場合に行われます。

3. 術前リハビリテーション

術前リハビリテーションの目的

  1. 膝周囲の炎症をなくすこと
  2. 膝の可動域を確保すること
  3. 膝周囲の筋力改善
  4. 術後の日常生活動作の確認

上記4点を目的に術前のリハビリテーション(通院 週1回程度)を実施します。術前のリハビリテーションは、術後スムーズに膝の機能改善を進める上でとても大切になります。

手術日までの目標

1. 膝周囲の炎症をなくすこと 

手術日までに怪我により生じた炎症(熱感・腫れ・痛み)をなくしておくことが大切です。術前に膝周囲の炎症(熱感・腫れ・痛み)をなくすことで、術後に起こりうる膝関節線維症(膝が固まり動かなくなる症状)の発生率が下がると言われています。

2. 膝の可動域を確保する

術前に膝の可動域を確保することも、術後の膝関節線維症を予防する上で大切です。手術前までに「膝を完全に伸ばせる・曲げられる」ようにしましょう。

3. 膝周囲の筋力改善

膝を安定させる筋肉に大腿四頭筋(太もも前の筋肉)とハムストリングス(太もも裏の筋肉)があります。術前の大腿四頭筋の筋力は術後の膝の機能に影響するといわれています。また、ハムストリングスは前十字靭帯への負担を軽減する役割をもつことから、術前に筋力を改善させることが大切です。

手術日までの日常生活

手術までの日常生活では、特に装具を着用する必要はありません。しかし、手術日までに2次的な怪我が生じないようスポーツ動作(ジョッギング・ジャンプ動作など)は禁止になります。体育や部活動への参加も禁止になります。

4. 術後早期 (退院まで)のリハビリテーション

退院までのリハビリテーション

手術翌日から退院までのリハビリテーションでは、それぞれの時期で目標となる課題があります。目標を達成できるように、担当の理学療法士とよく相談してリハビリを進めましょう。

術後 翌日~1 週

  • 膝の炎症を抑える (アイシング)
  • 膝のお皿を動かすことができる
  • 膝周りに力を十分に入れることができる

※この時期は膝を少し曲げた位置で固定します

術後1~2 週

  • 膝を伸ばすことができる (自分では行わない)
  • 膝を90°曲げることができる
  • 膝周りに力を十分に入れることができる

術後2~3 週

  • 膝を120°曲げることができる
  • 松葉杖で歩ける (体重半分の荷重)
  • 階段昇降ができる (体重半分・1段ずつ足揃えて)

※この時期から装具を付けて体重半分の荷重を開始します

術後3~4 週

  • 膝を135°以上曲げることができる
  • 装具外して歩くことができる (体重半分の荷重)

※この時期から装具を外して体重半分の荷重を開始します

術後4~5 週

  • 装具なしで歩ける (全体重かけて)
  • 装具外して階段昇降できる( 1段ずつ足揃えて)

※この時期から装具を外し全体重の荷重を開始します

5. 術後早期 (術後12週まで)のリハビリテーション

術後12週までのリハビリテーション

退院から術後12週までの期間は、術後12週(約3ヶ月)以降に行うジョギングやステップなどのスポーツ動作の開始に向けて身体機能を改善させる時期になります。

術後5週から 1.スクワット動作・2.ランジ動作・3.ステップ動作・4.片脚バランスの動作をそれぞれ開始し、各カテゴリーにおける動作を順に獲得していきます。

1. スクワット系動作

両脚スクワットができる

片脚スクワットができる

2. ランジ動作 (踏み込み動作)

3. ステップ系動作

ツインスティングができる

4. 片脚立位バランス

安定した片脚立位がとれる

各カテゴリーにおける運動の進め方については、担当の理学療法士と相談して下さい。

6. 術後後期のリハビリテーション

術後12週以降のリハビリテーション

術後12週 (約3ヶ月) 以降は、1.ランニング動作・2.ジャンプ着地動作・3.ステップ動作・4.バランス動作を術後の時期と身体機能状態を考慮してそれぞれ進めていきます。術後約6ヶ月が経過し、身体機能が良好な場合は徐々に競技への復帰を進めます。競技復帰のタイミングについては、必ず担当の医師・理学療法士と相談して下さい。

ランニング動作

ステップ動作

膝が安定した状態でステップ動作が行える必要があります。

バランス動作

  • 不安定面上で片脚立位が安定してとれる
  • 安定して片脚立位で対側の脚を自由に動かすことができる

ジャンプ着地動作

両脚・片脚でのジャンプ着地動作を安定して行える必要があります。床面での動作が安定したのち、方向転換を合わせたジャンプ動作や不安定面への着地動作を確認します。

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